
はじめに:オリジナルの動画のみある場合
海外向けの製品紹介動画や、外国人社員向けの研修動画を作りたいものの、手元にあるのは完成した日本語の動画だけ。
そのような場合でも、はたして外国語字幕やナレーションを作成できるのでしょうか。
実は、日本語の台本がなくても、動画の音声を書き起こすことは可能です。
そして、それをもとに字幕データやナレーション収録用の翻訳原稿を作成します。(ナレーション原稿は、外国語音声を収録する前の台本です。収録音声まで必要な場合は、ナレーターの手配、収録、音声編集、映像への挿入を別工程として組み合わせます。)
この記事では、字幕・テロップ・ナレーションの違い、台本のない動画を翻訳する流れ、主な納品形式、費用を左右する項目、依頼時に用意したい資料、具体的な対応例を解説します。

1. 動画ファイルだけでも依頼できるか
動画ファイルしかない場合でも、翻訳の相談は可能です。
動画内の音声を原語で文字に起こし、その原稿を翻訳して、用途に合った字幕用またはナレーション用の文章に整えます。
もし正式な台本がなくても、動画で使用したPowerPoint、過去の研修資料や製品マニュアル、用語集、途中版の原稿などがあれば、文字起こしと翻訳の精度を高められます。さらに、動画と異なる箇所がある資料も、参考情報として共有することをおすすめします。
また、音声のほか、画面上のテロップ、操作画面、図表、タイトルやクレジットをどこまで翻訳するか、映像編集やナレーション収録まで実施するかも決めます。
編集を別会社が担当する場合は、その会社が受け取れるデータ形式を確認する必要があります。
2. 字幕・テロップ・ナレーションの違い
本記事では、話している内容を文字で表示するものを「字幕」、見出し、製品名、話者名、注意書きなど、映像内のその他の文字情報を「テロップ」と呼びます。
(ただし、制作現場によって用語の使い方は異なります。依頼をいただいた時には、実際の画面を見ながら対象範囲を確認します。)
- 字幕: 表示時間に合わせて簡潔にし、読みやすい位置で区切ります。
- テロップ: 音声とは別の情報を示す場合もあれば、音声内容と重なる場合もあります。
- ナレーション: 映像に合わせて収録・挿入する音声です。翻訳では、聞いて自然で、映像の尺に収まる収録用原稿を作成します。

字幕とナレーションを別々に使用する場合は、それぞれの用途に合わせて文章の長さや語順を調整します。
同じ場面で字幕とナレーションを同時に使用する場合は、視聴者が混乱しないよう、用語や表現も可能な範囲でそろえます。
ただし、字幕の読みやすさを保つため、内容を変えない範囲で短くすることがあります。
3. 台本がない場合の「文字起こし → 翻訳 → タイムコード作成」
台本がない動画は、音声を文字に起こし、その原稿を翻訳したうえで、字幕またはナレーションとして使える形に整えます。
動画・音声の確認 → 文字起こし → 内容確認 → 翻訳 → 用途別の調整 → タイムコード作成 → 最終確認
実務では、文字起こしの段階で発言開始や話者交代の位置を確認し、仮の区切りを設定します。
その後、翻訳文の長さと映像の進行に合わせてタイムコードを確定します。(※タイムコード:動画内の位置を「時:分:秒」などの数字で示したものです。字幕を表示する開始・終了位置や、確認・修正する箇所を特定するために使います。)
3-1. 動画の内容と音声状態を確認する
まず動画全体の確認です。文字起こしと翻訳の対象範囲を整理します。主な確認項目は次のとおりです。
- 動画の長さ、使用言語、話者の数
- 音声の聞き取りやすさ、BGM・効果音の重なり
- 製品名、社内用語、専門用語の有無
- テロップや図表を翻訳するか
- 字幕・ナレーションのどちらか、または両方を作成するか
一部分だけを翻訳する場合は、開始時間と終了時間も指定します。動画の長さや順序が後から変わるとタイムコードの作り直しが必要になるため、できるだけ最終版に近いデータを使用します。
もし、BGMや効果音が発言に重なっている、複数人が同時に話している、録音音量が小さい場合は、聞き取りに時間がかかります。映像の動きや画面表示を手がかりにしますが、内容を確定できない箇所は推測で補わず、「要確認」としてコメントを残し、あとでまとめて確認します。
3-2. 動画内の音声を文字に起こす
次に、動画内の発言を原語のまま文章化します。音声認識で下地を作る場合は、結果をそのまま翻訳には使用しません。
とくに人名、会社名、製品名、型番、数字、略語、専門用語は誤認識が起きやすいため、音声を聞き直し、画面表示や参考資料と照合します。聞き取れない箇所は「要確認」とし、対談では話者を区別します。字幕・ナレーション用の原稿では、発言の意図を保ちながら、言い直しや重複を整理します。
3-3. 発言を適切な単位に区切る
文字起こしした文章は長い段落のままにせず、次の位置を目安に、テキストを区切っていきます。
- 話者が変わる位置
- 意味が一区切りになる位置
- 息継ぎや間(ま)が入る位置
- スライド、操作、製品の動きが変わる位置
操作説明では、カーソルやボタン操作のタイミングも確認します。字幕が映像より先に出たり、説明対象が消えた後まで残ったりするのを防ぐためです。
この段階の区切りはまだ仮のものです。翻訳すると文章の長さや語順が変わるため、訳文を映像に合わせながら、最終的な字幕単位へ調整します。
3-4. 文字起こし原稿を翻訳する
こうして内容を確認した文字起こし原稿を、指定言語に翻訳します。翻訳字幕は表示時間内に読み切れるよう簡潔に、翻訳ナレーションは聞いて自然で、映像の尺に収まる話し言葉に整えます。
画面上のテロップ、字幕、ナレーションに同じ用語が出る場合は、訳語を統一します。その際、製品マニュアル、過去の動画、用語集も確認します。
研修動画や操作説明では、分かりやすさを優先しても、手順、条件、注意事項を省略してはいけません。意味の正確さを保ちながら、視聴者が理解しやすい表現にします。
3-5. 翻訳文にタイムコードを設定する
動画を再生しながら、字幕には、各字幕の開始時刻と終了時刻を設定します。ナレーション原稿には、必要に応じて発話開始の目安や収録区間を記載します。字幕では、主に次の点に注意して確認します。
- 発言と字幕の表示開始が合っているか
- 読み切れる表示時間があるか
- 1つの字幕に文章を詰め込みすぎていないか
- 画面の切り替わりや話者交代とずれていないか
文字数が多い場合は、意味を変えない範囲で短くするか、複数の字幕に分けます。ナレーションでは、指定区間内に読み上げが収まるよう表現を調整します。
字幕の文字数や行数には一律の正解があるわけではなく、画面サイズ、視聴環境、対象言語、使用する配信システムによって適切な設定が異なります。(事前に指定ルールがあれば、それに合わせます。)
この後出てくるSRTやVTTは、時刻ベースで記録します。一方、編集用対訳表でフレーム単位の指定を求められる場合は、フレームレートと素材の開始タイムコードを確認します。その他、オリジナル映像の編集会社の要件を事前に確認しておきます。

3-6. 動画と照合して最終確認する
最後に、字幕やナレーション原稿を動画と照合します。文字だけでは問題がなくても、映像と合わせるとタイミングや文章量に違和感が出ることがあるためです。
- 訳抜けや重複がないか
- 固有名詞や数字が正しいか
- 字幕を無理なく読み切れるか
- ナレーションが映像の尺に収まるか
- 画面上の用語と訳文が統一されているか
確認後は、字幕ファイル、対訳表、ナレーション収録用原稿など、後工程で使用できる形に整えて納品します。修正時の混乱を避けるため、動画の版と納品データの対応も明確にします。
4. 主な納品形式と焼き込み字幕の違い
SRT、VTT、Excel対訳表は、字幕や翻訳データの納品形式です。一方、焼き込み字幕は、字幕を映像に直接合成した動画として納品する方法で、通常は動画編集工程を伴います。 動画編集を別の制作会社が行う場合は、使用する編集ソフトや受け渡し方法を確認して納品形式を決めます。代表的な形式は次のとおりです。
- SRT:開始・終了時間と字幕文を記録する一般的な字幕ファイル
- VTT:Web動画で利用され、再生環境が対応していれば文字位置なども指定できる字幕ファイル
- Excel対訳表:原文、訳文、タイムコードを一覧で確認・修正しやすい形式
- 焼き込み字幕:字幕を映像に直接合成し、表示のオン・オフができない形式
内容確認と修正を重視する段階ではExcel対訳表が便利です。動画配信システムへ登録する場合はSRTやVTT、字幕表示を常に固定したい場合は焼き込み字幕が適しています。
5. 費用を左右する項目
費用は動画の長さだけでは決まりません。実際の発話量、対象言語数、文字起こしの有無、音声の聞き取りやすさ、話者数、専門性、翻訳対象となるテロップの量、タイムコード作成、納品形式、希望納期によって変わります。ナレーション収録や焼き込み字幕まで依頼する場合は、ナレーターの手配、収録、音声編集、動画編集などの費用も加わります。
同じ10分の動画でも、音声が明瞭な単独ナレーションと、複数人が話す対談では作業量が異なります。「10分・日本語から英語・話者1名・音声明瞭・字幕用SRT納品」のように条件を整理すると、見積もりがスムーズです。
見積もり時は、必須の作業と、できれば依頼したい作業を分けて伝えると、文字起こしのみ、翻訳まで、字幕データ作成までといった範囲別の比較がしやすくなります。
6. 依頼時に渡すもののチェックリスト (お役立てください)
- ☐ 翻訳する動画ファイルまたは確認用URL
- ☐ 動画の用途と想定視聴者(社内研修、製品紹介、一般公開など)
- ☐ 支給動画が最終版か、今後差し替わる可能性があるか
- ☐ 翻訳する言語と使用地域
- ☐ 字幕・ナレーション・テロップの希望範囲
- ☐ 希望する納品形式 (ファイル形式など)
- ☐ PowerPoint、マニュアル、用語集などの参考資料
- ☐ 固有名詞や製品名の正式表記
- ☐ 希望納期と動画公開予定日
- ☐ 秘密保持契約(NDA)の締結が必要か、動画や参考資料をどの方法で受け渡すか
社内研修や未公開製品の動画では、内容だけでなく、データの取り扱いも重要です。翻訳プラスでは、ご要望に応じて秘密保持契約(NDA)の締結にも対応しています。動画や参考資料の容量、機密性に応じて、受け渡し方法も事前に確認します。
もちろん、これらが全てそろっていなくても、翻訳会社への相談は可能です。未確定の項目も共有しておけば、依頼後に必要となる工程を整理できます。
参考資料がない場合は、確認が必要な固有名詞や聞き取りにくい箇所を一覧にして、依頼者側で判断できるようにします。
7. 台本のない中国語動画の対応例
ある企業イベントで上映される約10分の中国語プレゼン動画について、日本語字幕を制作しました。完成した台本はなく、中国人登壇者の音声を聞き取りながら、中国語原文を起こすところから作業を始めました。
内容には、コンプライアンス管理に関する専門的な表現も含まれていました。そのため、音声だけでは語句や意味を確定できない箇所については、推測で補わず、確認事項として明示しました。
確認用Excelには、タイムコード、中国語原文、日本語字幕訳を並べ、判断が必要な箇所については、中国語原文と日本語訳をお客様に同時に確認いただきました。確認後の修正を反映して字幕を確定し、映像への字幕挿入を行ったうえで、イベント上映用のmp4データとして納品しました。
台本のない動画では、聞き取れない箇所や専門的な表現を曖昧なまま訳さず、原文と訳文を対応させて確認できる形にすることが重要です。これにより、お客様は判断が必要な箇所だけを効率的に確認できます。
実際の制作工程と納品内容は、「中国語動画の日本語字幕制作事例」で紹介しています。
まとめ:動画・eラーニング翻訳についてご相談ください
台本や字幕データが残っていない動画でも、内容を確認して必要な工程と納品形式をご提案します。動画ファイル、対象言語、ご希望の仕上がりが分かる範囲でお知らせください。
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