はじめに
「日本語版と同じデザインで、英語版も作りたい」。パンフレットや冊子の多言語化では、こうしたご要望があります。配色やイラストを生かせば、複数の言語で統一感のある冊子に仕上げられます。ただし、同じ枠に訳文を入れても、同じように読みやすくなるとは限りません。
実際の制作では、文字を小さくして収めた結果、注意書きが読みづらくなったり、日本語で色を付けていた部分と英語の強調箇所がずれたりすることがあります。発注担当者が外国語を読めない場合、見た目が整っているために、気づきにくい点でもあります。
今回は、「生命保険ガイド(仮称)」の見開きを例に、発注前や仕上がりの確認時に押さえたいポイントを3つに絞ってご紹介します。青い確認欄、オレンジ色の注意欄、書類や人物のイラストが、外国語版ではどう変わるかを見ていきましょう。

生命保険分野の訳し分けや用語統一については、関連記事「生命保険冊子の英訳で品質を左右する3つのポイント」もご覧ください。
1.文字を収めるための調整が読みづらさを生むこともある
左の10ページには、「どんなとき」「いくら」「いつまで」「保険料の負担」という4つの確認欄があります。日本語では見出しも説明も枠内に収まっていますが、翻訳すると、それぞれに必要なスペースが変わります。
たとえば「『いくら』受け取れるの?」は、英語でも「How much will I receive?」と短く表現できます。一方、説明文では「保険金」「給付金」「年金」を区別して伝える必要があります。保険金と給付金はいずれも benefits と訳すことがありますが、何に対する支払いかが分かる表現に整えます。
見出しが収まるからといって、本文も同じ大きさや行数で収まるとは限りません。言語や表現によって短くなる部分もあるため、一律に拡大・縮小するだけでは対応できないのです。


発注時に見落としやすいのが、「元の枠を変えない」という条件の影響です。枠を固定し、文字量の多い箇所だけ文字を小さくすれば、見た目は収まります。しかし、同じ役割の説明なのに文字サイズがばらついたり、注意事項だけが読みにくくなったりします。枠の高さやイラストとの間隔を調整できるか、最初に相談しておくと、読みやすさを確保しやすくなります。
改行にも言語ごとの配慮が必要です。英語のような言語は通常、単語の区切りで改行するため、行末にまとまった余白ができることがあります。日本語版と同じように行末をそろえようとして、単語間のスペースを広げすぎると、かえって読みづらくなります。単語の途中で改行する場合も、ハイフネーションの規則に沿った処理が必要です。
確認時には、枠からのはみ出しに加えて、「本文の文字サイズはそろっているか」「小さな注意書きまで無理なく読めるか」を見比べましょう。印刷物なら実際の掲載サイズで確認すると、画面で拡大しているときには気づかなかった小ささが分かります。訳文を短くして調整する際も、条件や注意点を落とさないことが前提です。
2.色文字や太字の位置は翻訳の意味に合わせて変わる
右の11ページでは、途中解約の説明にある「総額よりも少なくなる」や、投資性の強い保険の「損失が生じる恐れ」が、オレンジ色の太字になっています。文章をすべて読まなくても、注意点を見つけられるようにした工夫です。
色文字や太字は、原文のどの内容を目立たせているのかを確認してから、訳文に反映します。たとえば、この冊子では「総額よりも少なくなる」という注意点が、オレンジ色で強調されています。英語でも「lower than the total premiums paid」のように、「払い込んだ保険料の総額を下回る」という内容が目に入るように整えます。


日本語と英語では語順や表現が変わるため、色を付ける位置や長さも変わります。仕上がりを確認するときは、色文字があるかどうかに加えて、原文と同じ注意点が強調されているかを確かめることが大切です。「何を強調するか」は、文章の意味に関わる判断なのです。日本語と外国語を照らし合わせ、原文と同じ注意点に視線が向くように整えます。
意外に見落としやすいのが、英訳を修正した後の強調箇所です。語順や表現を変更したのに色や太字の範囲が以前のままだと、別の言葉が目立つことがあります。「英文の修正は反映されたか」とあわせて、「修正後も強調する意味が合っているか」まで確認する必要があります。
また、右上の書類紹介では、4種類の書類それぞれにイラスト・名称・説明があります。訳文が長くなって隣の項目に近づくと、どの説明がどの書類に対応するのか分かりにくくなります。名称と説明を一組として読める余白や区切りも、意味を伝えるためのレイアウトです。
外国語を読めない場合は、制作側に「日本語のどの強調箇所が、外国語のどの部分に対応するか」を示してもらうと、確認しやすくなります。色や太字があるかどうかから一歩進めて、何を読者に伝えるための強調なのかを共有することが大切です。
3.翻訳対象は本文の外にも隠れている
本文の翻訳原稿がそろっていても、紙面にあるすべての文字を拾えているとは限りません。イラストや画像の中の文字は、Wordなどで本文をコピーした際に含まれないことがあり、依頼時にも確認時にも見落としやすい箇所です。
左ページの保障期間のイラストには、「70歳」「80歳」「一生涯」という吹き出しがあります。右ページにも、書類の絵にある「契約」「概要」などの文字や、銀行の看板があります。これらは説明の理解を助ける情報なので、どこまで外国語にするか、制作前に確認しておきます。
ここで作業に影響するのが、文字を編集できる元データがあるかどうかです。見た目が同じPDFでも、文字を個別に扱える場合と、画像に一体化している場合があります。後者では、日本語を消して背景を整え、外国語を配置し直す処理が必要です。翻訳用の本文だけでなく、編集可能な制作データや画像素材を支給できるかも確認すると、作業範囲や費用の見通しを立てやすくなります。
右端の縦書きタブにも注意しましょう。日本語では読みやすくても、たとえば、英語を1文字ずつ縦に並べると、単語として読み取りにくくなります。横書きや、文字列全体を回転させる方法などを検討します。スペースに合わせて名称を短くする場合は、目次や章見出しと対応が分かるかも確認します。
ただし、紙面にある日本語をすべて置き換えるとは限りません。たとえば左下の参照先冊子の表紙を、実在する日本語版の案内として掲載するなら、その画像を残すことも考えられます。その場合は、参照先が日本語資料であることを説明します。翻訳漏れと、意図して残す日本語を区別し、理由を共有しておくと、確認時に迷いません。

まとめ
多言語レイアウトを確認するときは、次の点を見てみましょう。
- 文字が枠内に収まり、元のデザインとの統一感があるか
- 本文や注意書きが読みやすい大きさか
- 必要な注意点が目に入るか
- 本文以外の文字も適切に扱われているか
表現を変更した場合は、ほかの箇所との統一がとれているかも確認しましょう。
発注時に、元のデザインをどこまで調整できるか、画像内の文字をどこまで訳すかを共有しておくと、仕上がりの認識をそろえやすくなります。翻訳プラスでは、翻訳から多言語レイアウトの調整、完成データの確認まで対応しています。冊子やパンフレットの多言語化をご検討の際は、元データの状態も含めてご相談ください。
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