
はじめに
「仕様書の翻訳を外注したら、現場で意味が通じなかった」「マニュアルの訳語がバラバラで、作業者が混乱した」——技術翻訳における誤訳は、ビジネスや現場に直接的なダメージを与えます。
技術翻訳は、一般的な翻訳と比べてミスが許されない領域です。しかし、どんなに経験豊富な翻訳者でも、専門知識の不足や文脈の読み違いによって誤訳は起こりえます。
本記事では、技術翻訳でよくある誤訳の具体例と、その防ぎ方を翻訳会社の視点で詳しく解説します。
1. 技術翻訳とは?なぜ難しいのか
技術翻訳とは、製品マニュアル・仕様書・特許・工業規格・設計図書・ソフトウェアのUIなど、専門的な技術文書を対象とした翻訳です。
難しさの核心は、言語能力と専門知識の両方が求められる点にあります。語学が堪能でも機械工学の知識がなければ正確に訳せず、逆に技術者であっても翻訳スキルがなければ自然な訳文は生まれません。(ただし、元の原文も、それをわかりやすく文章として構成して対象者に説明することは、専門の技術文書ライターの職域です。そもそも、原文が雑で、翻訳文の内容がきちんとすることはありません。)
この二つ、言語能力と専門知識とを兼ね備えた翻訳者は希少であり、それが技術翻訳の品質にばらつきが生じやすい根本的な理由となっています。
2. 技術翻訳でよくある誤訳の5つのパターン
それでは、どのような誤訳が生じやすいか、以下の例をもとにご紹介します。
① 専門用語の誤訳・混在
まず一つ目は、専門用語の意味を正確に把握していないことに起因する誤訳または、同意用語の混在です。単独の誤訳とまでいかなくても、用語にバリエーションがあると、とくに技術文書にとっては厄介です。
バリエーションが招く誤訳
“torque” : 同一文書内で「トルク」「回転力」「ねじり力」と訳語が統一されていない。(ばらつき、バリエーション)
問題点
同じ部品や動作を指す用語が箇所によって異なると、読み手(エンジニアや現場作業者)は別の概念と誤認する危険があります。特に製造業の手順書では、作業ミスや事故につながるリスクがあります。
問題①:別の概念と誤認される
製造現場の作業者が手順書を読む場面を想像してください。
手順3:「トルクを規定値に合わせてください。」
手順7:「回転力が過剰にならないよう注意してください。」
手順12:「ねじり力の確認を怠らないこと。」
同じ文書の中でこのように表記が変わると、作業者は「これらは別々のパラメータを指しているのか?」と混乱します。特に経験の浅い作業者や、日本語が母語でない作業者にとっては深刻な誤解を招きかねません。
問題②:検索・参照ができなくなる
デジタル化された手順書やマニュアルでは、特定の用語をキーワード検索して該当箇所を探すことが一般的です。「トルク」で検索しても「回転力」と訳された箇所はヒットしません。必要な情報に辿り着けないという実務上の問題が生じます。
問題③:翻訳メモリへの悪影響
Translation Memory(TM)ツールを使って翻訳資産を蓄積している場合、訳語がバラバラだと次回以降の翻訳でも不統一が引き継がれ、問題が雪だるま式に拡大します。
防ぎ方
翻訳前に用語集(グロッサリー)を整備し、翻訳者全員が参照できる環境を整えることが最も有効です。既存の社内用語集や過去の翻訳資産(Translation Memory)がある場合は必ず共有するようにしてください。(もちろん、外部の業者に渡す場合は、NDA(機密保持契約)を交わすなど、第三者への流出を防止する手立てを講じることをお奨めします。)
② 単位・数値の誤訳
つぎに2つ目として、単位や数値を換算する場合の変換ミスなど、うっかり間違えてしまいやすいものです。
誤訳例
“Tighten to 10 ft-lbs.” : (フィート・ポンド)を「10N・m(ニュートンメートル)」とそのまま変換せず訳したり、あるいは誤った換算値で訳したりするケース。
問題点
単位の誤訳は物理的な破損・製品不良・最悪の場合は人身事故に直結します。技術翻訳における数値ミスは「些細な誤り」では済まされません。
ミスの種類①:単位を変換せずそのまま訳すケース
原文:”Tighten to 10 ft-lbs.”
誤った訳文:「10フィート・ポンドに締め付けてください。」
日本の現場では、トルク値はN・m(ニュートンメートル)で表記されるのが一般的です。ft-lbs(フィート・ポンド)という単位に馴染みのない日本人作業者にそのまま渡しても、トルクレンチの設定ができません。
この場合、翻訳者が「単位の変換は自分の仕事ではない」と判断するか、あるいはft-lbsという単位自体を知らずにそのまま音訳してしまうことで発生します。
ミスの種類②:換算値を誤るケース
正しい換算:
1 ft-lb = 約1.356 N・m
したがって 10 ft-lbs = 約13.6 N・m
誤った訳文の例:
「10 N・mに締め付けてください。」
数値をそのままにして、単位だけ置き換えてしまうパターンです。(10 ft-lbsと10 N・mでは約26%もの差があります。)
ボルトの締め付けトルクの場合、この差は非常に深刻です。締め付けが弱すぎれば部品の脱落・緩み、強すぎればボルトの破断・ネジ山の損傷につながります。製品の安全性に直結するミスです。
なぜこのミスが起きるのか
この誤訳が発生する背景には、主に3つの要因があります。
① 翻訳者が単位換算を自分の業務範囲外と認識している
翻訳の依頼範囲が「言語の変換」に限定されていると、翻訳者は単位換算に踏み込まない判断をすることがあります。発注時に「単位の換算も含む」と明示されていないと起こりやすいミスです。
② 翻訳者が技術的な背景知識を持っていない
ft-lbsという単位がトルクを表し、日本の製造現場ではN・mが標準であるという知識がなければ、問題の存在自体に気づきません。言語のみのスキルで技術文書を担当した場合に起こりやすいパターンです。
③ 換算ミス
換算する意識はあっても、計算を誤るケースです。ft-lbをkgf・mと混同するなど、類似単位の取り違えも現場では見られます。
防ぎ方
数値・単位が含まれる箇所は翻訳後に専門家によるダブルチェックを必須とすることが重要です。また、発注時に「単位系の変換が必要か、そのままでよいか」を翻訳会社に明示することも誤訳防止につながります。
繰り返しになりますが、技術文書の翻訳では、数値・単位が含まれる箇所を翻訳後にエンジニアや技術専門家がレビューする工程を設けることが理想です。翻訳者だけでなく、技術的な視点からのダブルチェックが品質を担保します。
③ 文脈を無視した直訳
3つ目は、とくに基本的な問題になります。極端な「直訳」を行った場合に生じる問題です。
誤訳例
“The system should be grounded.” : 「そのシステムは地に足がついていなければならない」と訳したケース(正しくは電気的な「接地(アース)」の意味)。
問題点
“ground”のように多義語を持つ英単語は、文脈なしに辞書的な意味で訳すと全く異なる意味になります。また、技術文書には、一般的な辞書に載っていない専門的な意味で使われる単語が多数存在します。文脈を無視して切り出した一部分のみを翻訳にかけることは、誤訳事故を招くようなもの。翻訳量を減らしてコストを削減するつもりが、逆に大きな損失につながる危険性があります。
防ぎ方
翻訳者に文書全体の背景・用途・対象読者を事前に伝えることが重要です。「この文書は電気設備の保守マニュアルである」という情報があるだけで、誤訳リスクは大幅に低下します。
あるいは、過去の翻訳資産の「翻訳メモリ」を共有している翻訳会社にお願いすると、翻訳メモリなどを参照して前後の文脈と矛盾しない翻訳を行ってもらえます。
④ 略語・アクロニムの誤解
4つ目は、先入観などによって生じる誤解が引き起こす例です。「アクロニム」とは、「頭辞語(とうじご)」のことで、Nippon Hoso Kyokai = NHKのように、フレーズの各単語の頭文字を繋ぎ合わせ、一つの単語のように発音する略語のことです。
誤訳例
“PLC” : 文書の種類によって「プログラマブル・ロジック・コントローラ」と訳すべきところを、別分野の略語である「製品ライフサイクル」(プロダクト・ライフ・サイクル)として訳してしまうケース。
問題点
技術分野によって同じ略語が異なる意味を持つことは珍しくありません。分野の異なる翻訳者がアサインされた場合に起こりやすいミスです。持ち前の知識が先入観として障壁となり、適切な訳語を選択できないケースです。
防ぎ方
発注時に文書の業種・分野を明確に伝えるとともに、略語リストを別途提供するのが有効です。翻訳会社側も、案件の分野に精通した翻訳者をアサインする体制を整えることが求められます。
⑤ 安全警告・注意書きの訳抜け・誤訳
最後は、とくに注意が必要な問題になります。
誤訳例
“WARNING: Do not operate near flammable materials.” : 「WARNING(警告)」を「注意」と訳したり、最悪の場合に訳抜けが発生するケース。
問題点
製品マニュアルにおける安全警告は、ISO・JIS規格で「危険」「警告」「注意」「注記」の4段階に厳密に区分されています。このレベルを誤って訳すと、製品の安全性に関わるだけでなく、法的責任の問題にも発展しかねません。
防ぎ方
安全警告の翻訳は規格(ISO 82079・JIS Z 8301など)に準拠した訳語を使用することが必須です。翻訳会社に依頼する際は、適用規格を明示するか、規格対応の経験を持つ翻訳者の指名を依頼しましょう。
3. 誤訳を防ぐために発注者ができること
さて、これらの誤訳例を見てくると、「翻訳者」に任せっきりにすることで起きるミスがあることに気づかれたと思います。技術翻訳の品質は、翻訳者のスキルだけでなく発注側の準備によっても大きく左右されます。以下の3点を意識するだけで、誤訳リスクは大幅に下がります。
① 参考資料を充実させる
過去の翻訳済み文書・用語集・製品カタログ・図面など、翻訳者が文脈を理解するための資料をできる限り提供してください。情報が多いほど、翻訳者は正確な判断ができます。
② 翻訳の目的と使用場面を伝える
「社内の技術者向け」なのか「エンドユーザー向けの操作マニュアル」なのかによって、最適な文体・専門用語のレベルが変わります。目的を明示することは、品質向上への最短経路です。
③ 疑問点への迅速な対応
翻訳者から確認事項が来た際は、できる限り速やかに回答してください。曖昧なまま翻訳を進めることが誤訳の温床になります。翻訳会社との円滑なコミュニケーションが、最終的な品質を決めます。
4. 翻訳会社側の品質管理体制も重要
誤訳を防ぐためには、発注者側の準備だけでなく、翻訳会社側の品質管理プロセスも確認しておくことが重要です
信頼できる翻訳会社は、翻訳(Translation)・校正(Editing)・チェック(Proofreading)のTEPプロセスを採用しており、複数の目で訳文を確認する体制を整えています。また、分野専門の翻訳者をアサインする仕組みや、Translation Memoryツールを活用した用語統一の仕組みを持っているかどうかも、発注先選定の重要な判断基準になります。

まとめ
技術翻訳における誤訳は、専門用語の混在・単位の誤変換・多義語の誤解・略語の誤認・安全警告の訳抜けといったパターンに集約されます。これらの誤訳は、製品の品質・現場の安全・企業の信頼性に直結する重大なリスクです。
誤訳を防ぐためには、翻訳会社の技術力と発注者の事前準備の両輪が欠かせません。用語集の整備・背景情報の共有・迅速なコミュニケーションという3つの習慣を持つだけで、技術翻訳の品質は大きく向上します。
技術文書の翻訳でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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