
目次
はじめに
国内の企業におけるeラーニングコンテンツは増大しています。
その理由として、近年の急速なデジタル化やコロナ禍の影響があったことは否めません。
さらにコンプライアンス教育、グローバル人材育成と国際化の必要性が後押ししたと言えます。
今後も、時間や場所にとらわれない効率的なナレッジメント共有が、国際化においては重要です。
そのため、ますます増加していくeラーニングコンテンツ。
本稿では、eラーニングコンテンツを国際化(多言語化)するのに役立つ点を解説していきます。
AI翻訳の正しい使い方とは?
本稿の結論ですが、「AIと人との組み合わせによるシナジー効果を求める」
… となります。

その組み合わせとは、一般的に「MTPE」とも言われます。
MTは、Machine Translation (機械翻訳) の略。
そして、PEは、Post-Editing (後編集)を表します。
「後編集(ポストエディット)」が一般的ですが、実際は「前編集」(Pre-Editing)も含まれます。
重要なのは、PEはMTと異なり、人が担うべき点ということです。
なぜそれが重要なのかを以下にご説明していきます。
「AI翻訳」の得意、不得意な点
AIは現状、センテンスを非常に速く、正確に翻訳します。
コスト削減と迅速なリリースを考えると、これを利用しない理由はありません。
今後もますますeラーニングコンテンツの翻訳で利用される機会が増えると予想します。
しかし矛盾するようですが、その「正確性」が足かせになる場合もあります。
以下の例は、AIとPEとで大きく表現が異なりやすく、AIが苦手なものになります。
AI翻訳が苦手とする表現
1. 反語(皮肉)、婉曲表現
- “Yeah, that meeting was super productive.”
AI : 「はい、その会議は非常に生産的でした。」
→ 字義通りの正確な訳
PE : 「いやあ、あの会議は本当に有意義でしたね。(苦笑)」
→ 本心と異なる場合の表現例
2. 文化背景が影響する表現
- “Break a leg.” のような「慣用表現」
→ 舞台に立つ人に向けて、成功を祈る言葉など
AI : 「足を折れ」→ 字義通り
PE : 「頑張って。」→ ふさわしい日本語の表現 - あいさつなどの短い定型フレーズ
→ 「暑中見舞い申し上げます」「お疲れさまでした」などの日本文化固有の挨拶。
3. ナレーション、字幕
動画のスピーチ内容を、場面に合わせて適切な文字数で翻訳する必要があります。
実際のシーンに合わせた表現アレンジが、現状のAIでは困難です。
4. 曖昧表現(複数解釈可能)
たとえば、次のような原文があるとします。
- (原文) 「遠隔による操作機能を削除します。」
「削除 (= delete)」という一言でも、場面に応じて具体的な用語を選ぶと、正確に伝わります。
たとえば、「機能の停止」、「機能の除去」、「機能の無効化」などに該当するような場合です。
このような場合は、人間が文脈を把握して、文を補正する以外に方法はありません。
つまり、原文を吟味し、文脈の正しい解釈をしながら、ブラッシュアップ(リライト)を行ないます。
そこで、「前編集(プレエディット)」(Pre-Editing)の必要性が出てくることになります。
AIによる翻訳と、この前編集とを組み合わせ、品質とスピードのバランスを確保します。
「前編集(プレエディット)」(Pre-Editing)
通常は、「翻訳の前」に行う編集作業になります。以下の、主な3点をご紹介します。
- 原文の吟味
- 用語辞書作成、または「翻訳メモリ」の構築
- 表記ルールや翻訳ルールの策定
1. 原文の吟味
まず、AI(または翻訳者)が解釈の間違いを起こしそうな箇所の洗い出しを行ないます。
それから、原稿内容が正確に伝わるよう、原文に修正を加えます。
つまり、他の言語への置き換えを想定した、「(原文)原稿」を改めて用意します。
(場合によっては、文化的な背景理由から、翻訳が不要な箇所が見つかることもあります。)
翻訳言語としてより一層、自然な文脈や表現になるよう、前段階で準備します。
2. 用語辞書作成、または「翻訳メモリ」の構築
eラーニングのコンテンツは、プラットフォームに合わせて扱うファイル形式も多かったりします。
映像ファイル、音声ファイル、パワーポイントほか各種ツールアプリなど、結構、幅広いです。
ただし「用語や文章の言い回し」は、どのコンテンツでも共通にそろえることが重要です。
そこで、多言語テキストのデータベース化(「翻訳メモリの構築」)をお勧めしています。
このデータベースにより、コンテンツ間相互のことばの表現を統一することが可能です。
翻訳メモリには、「用語の登録」も含まれ、共通で使う用語は辞書化されます。
言葉は人の記憶に頼るとあやふやになって、表現が振れてしまいがちです。
しかし、「翻訳メモリ」にすることであいまいな記憶違いが起きない仕組みとなります。
3. 表記ルールや翻訳ルールの策定
「翻訳メモリ」に表現を登録することと同時に、外見上の記述ルールも決める必要があります。
「スタイルガイド」の策定と確認という言い方をする場合もあります。
記述のルールとしては、大文字・小文字の使いかたから、記号・略語の統一など。
これには、国や地域別のローカライズ(金額や時間ほか単位表記)も含まれます。
これらの表記が振れてしまうと、読みにくくなるため、決め事として統一するのが望ましいのです。
前編集とAI翻訳を経て、次の後編集に進みます。
「後編集(ポストエディット)」(Post-Editing)
最近は、「ポストエディット」という言葉が、AI翻訳と一緒に使われることが増えました。
ポストエディットの種類
「ポストエディット」とは、AI翻訳をあとからチェックし、間違いがあれば訂正する作業をいいます。
主に「前編集(プレエディット)」で決めたルールから外れていないかを確認します。
- 「文脈を誤解していないか確認」
- 「文体トーン(調子)の調整」
- 「用語の統一確認」
- 「スタイルガイドや品質基準との照合」
具体的には、このような内容が中心となります。
そして、「前編集」がしっかりしていると、これらの確認がとてもスムーズになります。

ポストエディットが必要になった背景
では、なぜAI翻訳のままにしておいてはいけないのでしょうか。
それは、「AIに任せきりにしても、最終的な品質の責任をAIに負わすことができない。」
… という当たり前の理解が広まったからだと考えています。
できあがったものについて、品質の保証と責任を取ることができるのは、今の段階では人や組織です。
一つ例文をご紹介します。
- It’s raining cats and dogs!
→ AI翻訳(DeepL) : 「猫も杓子も雨だ!」または「犬猫の雨が降っている」
※ 実際は、正しくは「どしゃ降りです」の慣用表現。
ある意味、翻訳としては間違っていませんが、人がこのように翻訳すると怒られます。
現状のAIは、字義通り翻訳する傾向が強く、皮肉・ウィット(機知)・冗談・慣用句が苦手です。
人の感情や心情の裏にある意図を理解する力がまだ備わっていないようです。
AIは責任を取らない、取れない!
仮にAIに怒っても、形式的に謝ったり、あるいは訂正したりもしますが、間違いの責任は取ってもらえません。
しかし「ポストエディット」というチェックを入れると、品質についての保証責任を人や組織が負うことになります。
特にBtoBにおいて重要なのは、「責任の所在の明確化」です。
債務不履行や瑕疵とならないように、真剣に人がチェックするため、大きな品質保証が担保されます。
その意味では、現状のAIには人格が無いため、法律的にも社会的にも無責任と言えます。
「翻訳内容の品質保証と責任を取る」という当然なことですが、これがAIにはできません。
まとめ
現状、AIの特性は、人間には追い付くことができないほどの正確さとスピードだと思います。
得意とする内容の翻訳は、ものすごく正確に短時間で実行可能です。
しかしいくら正確でも、人間と同様「100%完ぺき」ということではありません。
節約できた時間を使って、今度は人の得意とする内容で補完するべきではないでしょうか。
足りないところは、誰かが足してあげないといけません。
私たちのようなプロの専門家であれば、完ぺきに近い形で補完できると考えます。
「AIと人との組み合わせによるシナジー効果を求める」が冒頭の結論でした。
AI翻訳の編集チェックを得意とし、品質保証と責任が取れる、翻訳プラス+ にぜひご相談ください。
