
初めに
「この翻訳、なんか違和感がある」「意味は合っているけど、読みにくい」——翻訳を発注した経験のある方なら、こうした感想を持たれたことがあるかもしれません。
せっかく期待して外部に発注しても、その仕上がりにガッカリしてしまうのは残念なことです。「これなら自分でやった方がよかった。」と、語学の心得のある方でしたら考えるかもしれません。
では、品質にガッカリしない「良い翻訳」とは一体何なのでしょうか。
翻訳会社として日々多くの翻訳案件に携わっていると、この問いは非常に奥深いものだと実感します。本記事では、翻訳品質とは何かを多角的に掘り下げ、良い翻訳を見極めるための視点をご紹介します。
1. 「正確さ」だけが翻訳品質ではない
翻訳に求められる最低条件は、原文の意味を正確に伝えることです。誤訳や訳抜け(原文の一部が翻訳されていない状態)は、翻訳品質の根幹を揺るがす問題であり、ビジネス文書や法律文書においては重大なトラブルにつながりかねません。
しかし、正確さだけが翻訳品質のすべてでもないのです。全文が「逐語訳」——つまり原文の単語を一語一語そのまま置き換えたような翻訳——は、意味は通じても読みにくく、読者に余計な負担をかけることがあります。
良い翻訳とは、「原文の意味を正確に伝えながら、ターゲット言語として自然に読める文章」であると私たちは考えています。この二つを両立させることこそが、翻訳者の真の腕の見せどころです。
2. 良い翻訳を構成する3つの要素
良い翻訳というのは、共通する特徴(要素)が含まれています。
早速、翻訳品質を評価する際、私たちが特に重視しているその要素を3つご紹介しましょう。
① 忠実性(Accuracy)
まず一つ目は、原文のメッセージ、トーン、ニュアンスが正確に再現されているかどうかです。単に言葉の意味が合っているだけでなく、著者の意図や文章全体の論旨が正しく伝わっているかが重要です。たとえば、ユーモアを含む文章や皮肉を込めた表現は、そのまま直訳すると真逆の意味になることさえ、あります。文脈を理解した上で適切に意訳できる力が求められます。
ほんの一例にすぎませんが、簡単な例をご紹介します。
原文:(英語)
“We need to think outside the box to solve this problem.”
忠実性の低い訳(逐語訳):
「私たちはこの問題を解決するために箱の外を考える必要があります。」
忠実性の高い訳:
「この問題を解決するには、従来の枠にとらわれない発想が必要です。」
“Think outside the box”は「型破りな発想をする」という意味です。逐語訳では意味が全く伝わりませんが、忠実性の高い翻訳は原文の意図を正確に再現しています。忠実性とは「単語」ではなく「意味とニュアンス」への忠実さです。
② 流暢性(Fluency)
つぎに2つ目として、自然な「流暢(りゅうちょう)」さということがあります。
つまり、翻訳であることを意識させないくらい自然な文章になっているかが、重要です。ターゲット言語の読者が読んだとき、「これは翻訳文だ」と感じてしまうような不自然な語順や表現は、内容に対する信頼性を損なうことがあります。特にマーケティング資料やWebコンテンツでは、流暢性が非常に重要視されます。
流暢性(Fluency)の例としては、以下の内容をご覧ください。
原文:(英語)
“Several errors were found in the contract.”
流暢性の低い訳:(間違いでは無い)
「いくつかのエラーが契約書の中で見つけられました。」
流暢性の高い訳:
「契約書にいくつかの誤りが見つかりました。」
この記事では詳細を割愛しますが、英語は「受動態が好まれる」場面があります。そのような場面でも、日本語では能動態の方が自然です。この文は「誰が見つけたか」が重要でないため、英語でも能動態(”Someone found errors…”)にする必然性がありません。日本語訳でも「見つけられました」とあえて受動態を引きずるより、自動詞の「見つかりました」を使って訳す方が圧倒的に自然です。
③ 一貫性(Consistency)
最後の3つ目は、とくに基本的な要素になります。
用語や表記が文書全体を通して統一されているかどうかもまた、読みやすさにおいて重視しています。同じ専門用語が箇所によって異なる訳語で訳されていると、読者に混乱を与えます。特に技術文書やマニュアルでは、用語の一貫性が理解のしやすさに直結します。用語集やスタイルガイドを活用し、翻訳者間で統一基準を共有することが、品質維持の鍵となります。このためには、「翻訳メモリ」ツールを用いて対応することが可能です。
たとえば、ITサービスの紹介パンフレットを翻訳する場面を想像してください。
例:一貫性の低い訳
一貫性の低い訳(同じ原文用語が複数の訳語で訳されている)
2ページ目:「ユーザーはアカウントにログインしてください。」
5ページ目:「利用者はアカウントにサインインしてください。」
8ページ目:「お客様はアカウントにログオンしてください。」
“User”が「ユーザー」「利用者」「お客様」と、”Log in”が「ログイン」「サインイン」「ログオン」とバラバラに表現されています。
例2:一貫性の高い訳
2、5、8ページ目:「ユーザーはアカウントにログインしてください。」
このように用語が統一されていると、読者は迷わず内容を理解できます。マニュアルや技術文書ではこのブレが操作ミスや誤解につながるリスクもあるため、「用語集(グロッサリー)」 を事前に整備することが非常に重要です。
3.「目的」と「読者」を意識した翻訳が良い翻訳
それでは、これらの要素を踏まえ、さらに良い翻訳の条件についてご説明していきます。
「良い翻訳」は、実は文書の用途や対象読者によって変わります。
たとえば、学術論文の翻訳であれば専門用語の正確さと原文への忠実性が最優先されます。一方、商品パッケージや広告コピーの翻訳であれば、ターゲット市場の文化的感覚に合わせた表現に書き換える「ローカライズ」のアプローチが求められます。
同じ英語の文章でも、医療従事者向けに書かれたものと一般消費者向けに書かれたものでは、最適な訳文のレベルや文体がまったく異なります。良い翻訳とは、常に「誰が・何のために・どのような場面で読むのか」という視点を忘れない翻訳です。
翻訳会社に依頼する際に、こうした背景情報を事前に共有していただくことで、翻訳品質は大きく向上します。私たちが初回の打ち合わせやヒアリングを重視しているのも、このためです。
4. 機械翻訳時代の「良い翻訳品質」とは ?
近年、DeepLやChatGPTをはじめとする機械翻訳・AI翻訳ツールの精度は飛躍的に向上しました。日常的なやり取りや社内向けの簡易文書であれば、機械翻訳で十分な場面も増えています。
しかし、対外的な重要文書、法的拘束力を持つ契約書、医療・製薬分野の文書、ブランドイメージに直結するマーケティングコンテンツなどでは、依然としてプロの翻訳者による翻訳が不可欠です。機械翻訳は文法的に正しい文章を生成することが得意ですが、文化的なニュアンスや文脈の深読み、意図的な表現の選択といった点では、人間の判断力に及びません。
翻訳会社の役割は、機械翻訳の速度・コスト効率と、人間の翻訳者の判断力・表現力を組み合わせ、用途に応じた最適な翻訳品質を提供することにあると考えています。
5. 翻訳品質を高めるために発注者ができること
良い翻訳は、翻訳者だけの力量で生まれるものではありません。発注者との連携が品質を大きく左右します。(いくつかのポイントをご紹介します。)
まず、参考資料や可能であれば用語集を提供することが効果的です。自社の製品名・サービス名・業界特有の用語をまとめたリストがあるだけで、翻訳の一貫性は格段に上がります。
次に、翻訳の目的や対象読者を明確に伝えることも重要です。「社内共有用の簡易翻訳でよい」のか「顧客向けの正式な文書として使用する」のかによって、求められる品質レベルが異なります。また、疑問点や確認事項には迅速に対応していただけると、翻訳者がより正確な訳文を作成できます。

まとめ
おしまいに、良い翻訳とは、正確であるだけでなく、読み手にとって自然で、目的に沿った翻訳です。翻訳品質は単なる言語変換の精度ではなく、忠実性・流暢性・一貫性のバランスと、文書の用途や読者への深い理解によって決まります。
翻訳会社として私たちが目指しているのは、「翻訳された文章だと気づかせないくらい自然で、かつ原文の意図を完全に伝える翻訳」です。それが、お客様のビジネスやコミュニケーションを確実に支える翻訳品質の形だと信じています。
翻訳のご依頼や品質についてのご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
当社の姿勢
私たちは、AI翻訳も人の翻訳も、いずれをも軽視しません。 両者の長所を組み合わせた最適解を追求していきます。
それは、お客様の目的、予算、納期、品質要求に応じて、最適なソリューションを提案するためです。
当社姿勢:
- AI翻訳で十分な場合は、正直に伝えます
- 人間翻訳が必要な場合は、その理由を明確にご説明します
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