
目次
はじめに
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIを翻訳に活用する機会が増えています。
しかし、ChatGPTをそのまま使うだけでは、なかなか良質な翻訳表現が出てきません。
本記事では、プロの翻訳者がChatGPTを活用しながら、直訳(または誤訳)を防ぎ、より自然で伝わる表現にする方法を解説します。
まず、結論ですが。
(本記事の結論) ChatGPTのような生成AIには、「翻訳」をさせないこと。
… いきなり全否定のような結論ですが、実は「もっと良い方法があります。」ということです。
いいかえると、「生成AIにはもっと良い仕事をさせる。」ということになります。
AIに、その「良い仕事」をさせるために、生成AI翻訳の特徴について少しご説明します。
生成AIが翻訳を行うとき、必ずぶつかる「壁(カベ)」というものがあります。
1. 生成AIにとっての翻訳の「壁(カベ)」
壁①「意訳」が必要なときは?
たとえば”Good morning.”=「おはよう。」ということならば、誰でも(AIでも)わかります。
この”Good morning.”ですが、字義通りに翻訳(直訳)すると「良い朝。」です。
間違ってはいませんし、ある意味、正しい翻訳と言えます。
しかし、もし「良い朝。」とだけ訳したら、多くの人が違和感をもつと思われます。
なぜなら「おはよう。」という朝のあいさつ表現は、いわゆる意訳ですが、いまでは「一般常識」となっているからです。
幸い、生成AIにとっても”Good morning.”=「おはよう。」くらいの意訳は、常識となっています。
ところがそもそも「字義通り」の翻訳が、生成AIが本来、得意とすることのはずです。
もちろん生成AIが自己判断で、どんどん意訳していけるとしたら、それはそれで楽?ですが。
今はそこまで自律性が備わっていない生成AIにとって、この「意訳」は「翻訳のカベ」と言えます。
壁②「定型の意訳」が無いときは?
では、食前の「いただきます。」や、食後の「ごちそうさま。」の英語は ?
「お疲れさま。」や「よろしくお願いします。」は、どうでしょうか。
「おはよう」と同様に日本では日常よく使いますが、英語ではどう表現するのでしょうか。
実は、生成AIは、これらのことばが使われた背景がわからないと、適切に訳せません。
英語では状況次第で表現が変わり、「おはよう」のようにぴったりな「正解」が無いのです。
壁③ 表現の違いによる文化的な違和感
ほかにも例えば、誰かがクシャミをすると、英語では”(God) Bless you!” と声をかけられます。
むりやり字義どおりに日本語にすると、「神のご加護を!」です。
(もちろんふつうは「お大事に!」とか、「大丈夫?」のように訳されます。)
あるひとつの状況に対して、英語と日本語とではずいぶん表現が違うことがわかります。
簡単な例をご紹介しましたが、実際、このような「壁(カベ)」が、翻訳ではよくあります。
つまり、「間違い(誤訳)ではないけど、ここではそういう言い方はしないよね。」
… という、なんとなく引っかかるような違和感が残ることがよくあります。
「おはよう。」のように「意訳」が定型になっていれば困りませんが、そうでない場合が多くあります。
(ちなみに、この表現文化の違いを解決することが、翻訳の役割だと筆者は考えます。)
もちろん生成AIも、「おはよう。」くらいの一般常識には対応しています。
しかし、「生成AIにとっての常識」の範囲から外れる場合には、注意が必要です。
2. 生成AI(ChatGPTなど)の翻訳の特性
ChatGPTは、大量のデータをもとに学習した言語モデルで、文法的には正しい翻訳を生成します。
しかし、以下のような特徴があるため、注意が必要です。
- 直訳しやすい:日本語の語順や表現をそのまま英語に変換する傾向がある。
- 文脈の解釈が不完全:前後の流れを考慮せず、一文ずつ翻訳して意図が変わる。
- フォーマル・カジュアルのバランスが不安定:適切なトーンに調整する必要がある。
3. もっと良くChatGPTを使うコツ
それでは、上記のクセを把握して、もっと上手にChatGPT(生成AI)を使うコツをご紹介します。
そのコツは、「お願いのしかたを工夫する。」ことなのです。
たとえば、「〇○語に翻訳してください。」から、「自然な〇〇語にしてください。」のように言い換えるとします。
以下の例をご覧ください。
「お願い」の表現を変えると…
例 )
- “If we get it, it’ll get you out of the pit you’re in.”
依頼1: 日本語に翻訳してください。
→ 「私たちがそれを手に入れれば、今いる落とし穴から抜け出せる。」(ちょっと固い?)
依頼2: この場面で、もっとも自然な表現にしてください。
→ 「そうしたら、今のピンチを抜け出せるよ。」(ピンチは、「窮地(きゅうち)」や「苦境」もOK)
いかがでしょう。
このように、ChatGPTのような生成AIは、指示の仕方で表現のトーンを変えてくるのです。
その指示は、できるだけ詳細で具体的なことが望ましいとされています。
それでは、単純な「翻訳」ではない、ふさわしい指示の仕方をいくつかご紹介します。
4.「上手な指示」の出し方
例 )
- 目的を明確にする
- 「ネイティブが自然に使う表現にしてください。」
- 「日常会話で使われるような表現にしてください。」
- 「フォーマル/カジュアルなトーンにしてください。」
- 文脈や対象を指定する
- 「ビジネス向けの英語(または日本語)にしてください。」
- 「プレゼン資料向けの表現にしてください。」
- 「ターゲット(例:一般ユーザー、専門家、子ども)に合わせて自然な表現にしてください。」
- 具体的な修正ポイントを伝える
- 「もっと簡潔で分かりやすくしてください。」
- 「より説得力のある表現にしてください。」
- 「よりプロフェッショナルな印象を与えるようにしてください。」
例 ) 英文
- Can you make this sound more natural for a business setting?
(ビジネス向けにより自然な表現にしてください。) - Please make this sentence sound like something a native speaker would naturally say.
(ネイティブスピーカーが自然に言うような表現にしてください。)
いかがでしょう。
どの表現を使うかは、どんな目的で修正したいのかによって選ぶと、いっそう効果的です!
まとめ
このように聞き方の工夫をすることで、単純な翻訳ではない結果を得ることができます。
まさに、生成AIには「翻訳をさせない」で、「文脈を理解させる」ことが重要です。
それによって、文章のトーン(調子)までそろえることも可能です。
とはいえ、それでもChatGPTの出力は完全ではありません。
それをそのまま採用せず、プロの視点で適切に修正することが重要です。
ChatGPTは、あくまで補助ツールとして活用し、専門の翻訳者が最終チェックを行うことで、自然で正確な言語変換を実現できます。
特に、専門分野の翻訳では、翻訳者の知識や文脈を加味して最適化することが重要です。
AI翻訳を上手に活用しつつ、そこにプロの視点を加えることで、より高品質な翻訳を実現してみませんか。
AI翻訳のご利用でお困りのことがありましたら、ぜひご相談ください。
翻訳業務にChatGPTを活かす際の参考になれば幸いです!
翻訳の編集チェックを得意とし、品質保証と責任が取れる、翻訳プラス+ にぜひご相談ください。

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