はじめに
みなさんは、突然、英語の文章を読まないといけない場面に出くわしたりするようなことはありませんか。
たとえばビジネスにおける海外資料だったり、英語の試験問題だったり、いろんなことが考えられます。
私たちの日ごろの翻訳業務では、長文を読むのが当たり前ですが、英文は英語のまま内容を理解することになります。
そんなわたしたちの経験をもとに、いろいろな場面で役に立つ、英文をできるだけ訳さずに「速く読むコツ」というものを、ここではご紹介したいと思います。
まず第一弾は、「toの意味をつかんで、不定詞を理解していこう ! 」です。
to不定詞を訳さずに理解するコツ
まずは、「to」のもつイメージをイラストにしてみました。
え? これでは、わからない? ・・・失礼しました。
本来、「to」とは、ある具体的な「方向」や「目的地」を指し示すはたらきをもつ言葉なのです。
(イラストでは、ワンちゃんが大好物のホネ「に向かって」いるつもり…でした。)
さて、長い文章になると、この「to」を使ってかならず出てくるものがあります。
それは、「to不定詞」と言われるものです。
私たちはふつう中学校で習うので、聞き覚えのある方も多いかもしれません。
実は、この「to不定詞」をイメージで理解すると、だいぶ長文を読むスピードが上がるのです。
では、もういちど、「to」のもつイメージをイラストにします。
このように、「to」は「方向」や「目的地」を目指すときに用いることばなのです。
イラストのように「→」に置き換えてイメージするとわかりやすいと思います。
この「to」のあとにくる言葉が、具体的な、その目指す先ということになります。
ところが、学校ではまず「to不定詞」の三つの用法を説明して、一所懸命テストして、その分類を身につけさせようとします。
to 不定詞の「用法」のおさらい
多くの人が中学校で初めて教わるのですが、「to 不定詞」には、3つの用法があると教えられます。
- 名詞的用法
- 形容詞的用法
- 副詞的用法
これを一見して理解する中学生がいたら、「神童」と呼ばせていただきます。
それぞれあてはまる日本語訳としては、1.「~すること」 2.「~するための」 3.「~するために」、と教わることと思います。
ただ、そのとおりに丸覚えしてしまうと、「to」のもともとのニュアンスからは、意識が離れてしまう気がするのです。
そこで、toの本来もつ意味に立ち返って、例文をみてみます。
to の例文で確認
以下の例文では「to」のあとに、矢印(→)記号をおぎなっています。ここでは、「3つの用法」自体に注目せずに、あくまでも「to」の本質を、いくつかの例文をみることで体感していただくのが目的となっています。
この「→」を意識して、つぎの例文を見てみてください。
- 通常の用法 (不定詞ではない例)
- I’m going to (→) the park. (私は公園に向かっている。)
- He dedicated his life to (→) science. (彼は人生を科学に捧げました。→ 科学に向けてささげた)
- to不定詞の「名詞用法」の場合
- I want to (→) learn Spanish. (私はスペイン語を学びたい → その方向に向かいたい)
- To (→) play soccer is fun. (サッカーをすることは楽しい → その行動に向かうのは楽しい)
- to不定詞の「形容詞用法」の場合
- I have a lot of things to (→) do. (やるべきことがたくさんある。 → やる方向の物事)
- This is a book to (→) read. (これは読むべき本です。 → 読むことに向いている本)
- to不定詞の「副詞用法」の場合
- He runs to (→) stay fit. (彼は健康でいるために走る。 → 健康でいることに向かって)
- I’m happy to (→) help you. (お手伝いできて嬉しいです。 → お手伝いに向かって)
以上のどれもが、「to」の前で話されたことを受けて、何らかの「目的や方向性を表すため」に、「to」の後ろで具体的にその向かう先(動作や状態など)を説明しています。
「~に向けて」とか、「~に向かって」とか、例文ではぎこちない日本語に聞こえますが、これこそが、「to」の持つ本来の語感になります。
もうひとつ念のために、「have to ~ (~しないといけない)」という、よく使われる表現についても説明します。
- I have to (→) finish this report by 5.
- (5時までにこのレポートを終わらせないといけない。→ 終わらせることに向けた(必要性がある))
「have」には、以前もご紹介したように、「持っている」という本質的な意味があります。
ここでは、「to」のあとに向けた「ことがら」を持っている (= 必要性がある)というニュアンスになります。
(余談ですが、have to をmustに置き換えると、「状況に迫られた必要性」から、「内面的な強い意志」へと、ニュアンスの若干の変化が感じられます。)
最後に
いかがでしょうか。すくない例文ですが、すべてに共通する「to」ということばの本質的な意味が伝わりましたでしょうか。
私たちプロの翻訳者と違って、実際はほとんどの場合、文章をすべて翻訳する必要が無いのが普通です。
受験問題も、ビジネス文書も、文章のすべてを翻訳する必要は無いはずです。
ところが、「to不定詞」を目にすると、つい頭の中であてはまる日本語を考えてしまわないでしょうか。
例えば、「これは、『副詞的用法』だから、『~するために』かな?」とか、考えたりしませんか。
ほとんど無意識にそういうクセが身についているかもしれません。(私だけ?)
それもそのはず、多くの人が中学校でそのように、日本語での「3つの分類法」を教わるからなのです。
(「三つ子の魂百まで。」とは恐ろしい。)
しかし、意味を素早くつかむだけならば、toを語感で理解したほうが早いことがおわかりいただけるでしょうか。
「to」は「→」といっしょ、という語感を身につけて、いままでよりも英文を早く読めるようになると良いですね。(続く)